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【講演レポート】教養講座「枝廣 淳子氏」講演要旨

2015年12月25日

2015年11月27日 東京都市大学環境学部教授、幸せ経済社会研究所所長 枝廣淳子氏講演要旨

◎レジリエンス~折れない心・暮らし・地域・社会~とは何か

レジリエンスという言葉はほとんどの人が知らないと思うが、これからのキーワードの一つになっていく。それはレジリエンスが必要な時代になってくるからだ。これから自分の暮らしや地域、日本、世界、地球についてレジリエンスを考えなくてはならない。

今後がどうなると思うか。環境問題や少子高齢化の問題がある。環境問題では地球温暖化の問題がこれから大きくなる。暑い夏や竜巻、豪雨、土砂崩れ、強烈な台風など異常気象が相次いでいる。異常気象は、気象庁の定義だと「30年に一度しか起きない異常な気象」というが、最近は毎年起きている。温度が上がると水が蒸発して雲ができ大雨が降る。降らない所は全然降らない。デング熱を招く蚊が北上し、農作物、果物、コメの品質が悪くなり、取れなくなる。

実は今日COを停止しても、これまでに排出したCOによって温暖化は進む。世論調査をすると、9割以上の人が「温暖化が実際にある」と分かっているが、備えをしているか聞いてみると、60%の人が何も考えていない。「備え」をしていくことが大事だ。COを減らすのは「緩和策」、備えをするのを「適応策」と言う。二つとも温暖化対策では大事だ。

次はエネルギーの話。日本だけでなく、途上国も必要としている。日本に来る石油、天然ガスの8割がホルムズ海峡を通ってきている。これが来なくなったら大変なことになる。リーマンショックのときのような金融・経済の問題も本当に解決してはいない。いつ円の価値が失われるかもしれない。仕事も、車の自動運転がニュースで多く取り上げられるように、運転手の仕事がなくなるかもしれない。

こういった外からのショックに対して、ポキッと折れてしまうのでなく、しなやかに立ち直る力をレジリエンスと言う。もとは物理学の用語で、押えられたとき戻る力、再起力、弾力性を意味する。分かりやすい例は竹だ。竹は強い風が吹いても、しなかやかに折れない。私は「しなやかな強さ」と訳している。これがとても大事になっている。落ち込んでしまってメンタルに折れてしまう人がいるなかで、折れない人もいる。これが心理的なレジリアンス。サークルで嫌なことがあったり、彼氏・彼女に振られたり、就活で断られたりしてもくじけず立ち直れる力だ。大変なことが起きる世界のなかでも、しなやかに立ち直る力が必要になっている。これがきょうの一番のメッセージ。

私は3月に『レジリエンスとは何か』という本を出した。レジリエンスの入門書で、自然、教育、心のレジリエンスについて書いている。立ち直れる心の強い子をどう育てるか。他の国では各方面のレジリエンスの研究が進んでいる。

自然界のレジリエンスの例として、沖縄のサンゴ礁で1998年白化現象が出てきたとき、回復したサンゴ礁がある半面、元に戻らないサンゴ礁もあった。2つのサンゴ礁の違いはレジリエンスの違いだ。立ち直れなかったサンゴ礁は赤土の流れ込む場所にあり、もともとレジリエンスが弱っていたことが分かる。生物界では、このように、ある一線を越えると全く状況が変わることがある。閾値(いきち)と非線形的な性質とされる。

地域のレジリエンスでは、暮らしに必要なものを自分たちで回せるようにしておくと強い。自分たちでエネルギーを作っていると、それが地域のレジリエンスになる。オーストリアのギッシングでは木質バイオマス発電で仕事を作った。島根県海士町では地域通貨を持っている。

熊本県山都町水増(みずまさり)集落は人口10世帯18人、平均年齢72歳。限界集落のトップランナー。このままだと集落そのものがなくなりかねない。共有地の斜面で太陽光発電をしようと公募した。13社のほとんどの企業が「いくらもうかるか」の話ばかりだったなかで、熊本のあるベンチャー企業だけが「ここで太陽光発電をして、若い人が帰れる村造りをしましょう」というプレゼンテーションをしたので、そこと組んだ。ソーラーパネル2000枚を置いた。事業者が村の人から土地を借り、土地代を払うほか、売り上げの5%、500万円は村造りに使う。山羊を飼ったり、山羊のチーズを作ったりシイタケ作りなどの構想に取り組んでおり、最近は移住希望者も出てきた。

レジリエンスを創り出すものは何か。世界にはたくさんの研究者がいるが、3つ共通して出てくるのは、①多様性。一つに頼るとポキッと折れる。オール電化の家は電気が来ないと困る。友達も一人だけだと関係が冷たくなるとどうしようもないが、友達が多いとどうにかなる。②モジュール性。いざとなったら、自分たちだけ切り離して何とかなるようにしておくこと。海士町の例だ。③緊密なフィードバック。いざという時には必要な連絡が必要な場所に届くかが大事だ。

心理的なレジリエンス、すなわち折れない心も必要だ。人生を生きていく中では、つらいことも避けることはできない。もしつらいことがあっても、折れない心を身につけておくと乗り切れる。例えば企業倒産があったとき、心が折れる人もいれば、折れない人もいる。ますます成長する人もいる。こうした心理学的なレジリエンスは30年前から研究が進んでいる。「スーパーキッズ」「不屈のサバイバー」の研究だ。そういう人は何が違うか。近年では特殊な人でなく、普通の人のレジリエンスの研究が進んでいる。

心が折れない人には自己肯定感がある。自分は自分のままでいいんだという感覚だ。楽観的思考だ。ABCモデルと言われる。単純にAdversity(逆境)が直接Consequence(結果)をもたらすわけではない。そのときBelief(考え方)次第で状況の捉え方が違ってくる。①「いつも」と思うか、「今回だけ」と考えるか。②「すべて」と思うか「これだけ」と思うか。③「自分のせいだ」と思うか、「自分以外のせいもある」と思うか。悲観的思考とは「いつも」「すべて」「自分が悪い」と考える癖がある人で、こういう人はレジリエンスを強くしてほしい。何かあったとき「自分が」という考えをしていないかを考えてみる。友達から無視されたとき、「どの程度か」を自分で考えてみる。その友達から「3日前は認められたよね。『いつも』とは限らない」と考え、口に出して言ってみると悲観論から抜け出せる。いろんなことを話したが、自分に大事なレジリエンスのことを考え、レジリエンスを高めてほしい。

(文責・井芹)

 
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(敬称略)