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  1. 【講演レポート】教養講座「原 麻里子氏」講演要旨

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【講演レポート】教養講座「原 麻里子氏」講演要旨

2015年12月09日

2015年11月20日 アナウンサー・文化人類学者 原 麻里子氏講演要旨

◎「イギリス留学のすすめ~ケンブリッジ大学で学んだこと

 私が卒業した女子学院は1870年創立であるが、改組後初の院長の矢島楫子さん、その遺志を継いだ久布白落実さんは熊本県出身。熊本は女性運動で活躍した女性の印象が強い。私の曽祖父は済々黌中祖父は五高卒業、母が疎開していたので、私も熊本に関係がある。

私はテレビ朝日に入り、ロンドンのBBC World Service(当時は37言語で放送)に派遣され、日本語でニュースやイギリス関係の番組を制作放送した。同僚にはベトナムのボートピープルや、徴兵されたソ連兵士としてアフガニスタンに送られ、西側に逃亡した人、ハンガリーで地下活動をしていた人などがいて、様々なバックグラウンドの人に会ったが、彼らの経験談などは衝撃的で、自分の世界の狭さに気付かされた。

BBCに行く前に1年間、私は外報部で訓練を受けたが、イギリスでは英語が聞こえない、話せない。半年で英語は聞こえるようになったが、英語で議論ができないという劣等感に悩まされた。他言語のスタッフには欧米の有名大学院卒が多く、私も留学すべきだと思った。私は学生時代からアナウンサーの入社試験に通らなかったら留学しようと思っていたこともあり、留学を決意した。

イギリスはエリート文化を持つと同時にメリトクラシー(能力主義)が強い。イギリスには内と外という境界線がなく、人々は、優秀なものを外から入れないと、組織はダメになると考えているので、イギリス人以外の優秀な人の活躍する場が開かれていて、競争が非常に厳しい。一方、日本では仲間を大事にして仕事を優遇したりしている。

留学先はケンブリッジ大学社会人類学科。ケンブリッジはケム川に架かる橋の意味で、ケム川から見たカレッジの姿が美しい。ケンブリッジは学部とカレッジに分かれていて、学生と多くの研究者たちは、その両方に所属する。歴史のあるカレッジには奇妙な伝統があり、キングス・カレッジ内の芝生の上はシニア・メンバー以外は歩いてはいけない。

さて、ケンブリッジとオックスフォードのみに存在するスーパービジョンという教育方法がある。学部生は与えられたリーディング・リストと問題の中から選ばれた問題に答えるアカデミック・エッセイを週約2本書く。提示されたリーディング・リストの文献を読んで、エッセイを書くようにするのがイギリス式。そのエッセイを元に、教員、研究者、大学院後期の院生から指導を受ける。ゲルナ―(社会人類学者)からの引用を書くと、「その本の内容を話すように」と言われ、「ファシズム」と書けば、その定義を聞かれる。指導する研究者と同僚との議論が大切。学ぶプロセスが重要なので、コピペする学生はいない。

ケンブリッジでは、セミナーは一人で発表する。こちらも、リーディング・リストと問題が出されていて、その問題に答えるアカデミック・ペーパーを用意する。コメンテーターの役を振られると、前もってペーパーを貰えず、その場で相手の発表にすぐに、英語でコメントする必要があるので、これも挑戦的だった。しかし、知識を固定したものとして受動的に受け取るのでなく、議論をする中で知識を組み立てていくのが大事だと教えられた。知識の利用者、生産者になる必要があるのだ。しかも、英語で。

学年末試験の成績は貼り出されて公表される。転職の多いイギリスでは、生涯最終学年の成績を履歴書に書くので、学生は一生懸命勉強する。ケンブリッジでは、学生は試験に失敗すると、再試はあるが、それでも、落第すると、放校処分である。病気で入院していても、その時間に、教員が病室に来て、試験を受けねばならない。大学の学位授与式は海外からも家族が出席するファミリーイベント。私の時も、母と妹が出席した。前後するが、学部生の入学前には、ギャップ・イヤーがあり、1年間、ボランティアをしたり、学費を稼ぐために、働いたり、旅行をしたりする学生も多い。しかし、ケンブリッジの学部生は、学期中は、アルバイト禁止。講義は20週で、勉強が大変なので、アルバイトの余裕もない。

イギリスの学校には、時間貸借表という考え方がある。ケンブリッジでは、授業は13時までで、午後がスーパービジョンやセミナーなどの時間。真面目な学生たちは、長期に渡る、一週間の予定表を組むが、なかなかその通りに実行できない。例えば、ライティングの時間にテニスをしたら、テニスの時間にライティングをする。一週間トータルで決めた時間で決めたことをする。これが時間の貸借表である。もっとも、熱心なのは教員と大学院生たちで、大学には14時間勉強したり、週末に1000ページのペーパーを読む有名研究者がいた。皆さんも、時間の賃貸借表を作って、やってみるといいかもしれない。

イギリスの教育はジェントルマンを育てるとされ、学生と教員、学生同士のやり取りで人間性が磨かれると考える。親から離れてカレッジ生活をしながら、勉強することで、出身家庭によらない、大学の価値観が身につく。ケンブリッジの場合、抽象的な考えを正しく簡潔に伝え、相手の言うことを聞いて説得する技術を学ぶことが重要と考える。日本ではこうした説得や弁論術を教えていない。最近、政府や大企業の説明責任が足りないということがよく問題になるが、それも、日本人がこうした教育を受けていないことに関係しているように見える。

海外に出ると、日本ではありえないこと、会うことのない人達に出会う。皆さんも、海外に留学したり仕事をして、様々な経験を積んで下さい。きっと、人生が豊かになる。

(文責・井芹)
 
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(敬称略)