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2015年07月31日
2015年7月10日 植松電機専務 植松努氏講演要旨
◎思うは招く~夢があればなんでもできる~
僕はいろんなものが大好きです。バイクで走ることやまんがなどです。北海道の芦別(あしべつ)に生まれて、いま赤平(あかびら)で会社を経営している。人口が減り続けるという、お先真っ黒な時代なだけに夢が大切です。小学校卒業のとき、「私の夢」という題で作文を書かされた。「自分の作った潜水艦で旅をすること」と書いたら、先生が「みんなは仕事のことを書いているのに、お前は何で、できもしない、夢みたいなこと書くんだ」と叱られた。「お金があって、頭も良くないと無理」とも言われた。僕は爺ちゃんから図鑑を買ってもらっていて、それに南北戦争のとき実際に作った潜水艦の絵があった。これなら作れると思って書いたが、先生は歴史を知らないで「潜水艦なんか作れない」と言っただけなのだ。
夢って仕事なのか。できそうな夢しか見ちゃいけないのか。よく「いい会社に行きなさい」と言われる。何がいい会社なのか質問すると、「安定して、楽をして、お金がもらえる」のがいい会社だそうです。能力を身に着けておきながら「楽な仕事」ではつまらない仕事のように思える。そんなんで会社を選ぶと間違う。お金が必要な夢というのは、誰かがしてくれるサービスを待っているだけ。逆に、これまでできなかったことをできるようにしてあげると、それが仕事になるかもしれない。「本当の夢」って何だろうと、ときどき考えてほしい。
僕の会社(植松電機)はいろんなことをやっている。ロケットを丸ごと作って打ち上げている。人工衛星も丸ごと作って打ち上げている。無重力を作り出す実験施設はドイツとNASAと私のところにしかない。本業の仕事はリサイクルで使うマグネットを作っている。市場占有率100%で、競争相手がいない。マグネットの原理は誰でも知っているが、効率の良いマグネットを発明したんです。発明のコツは「みなが嫌がること」をどうしたらいいか考えると、人助けになり、発明になる。リサイクルの仕事を見ていて、これは危険だなと思ったから、発明につながった。「いやなこと」に出会って「うざったい、むかつく、面倒くさい」とか思うのは、ただ不愉快だというのを示しているに過ぎない。それでは赤ちゃんと同じ。「いやなこと」に出会ったら、とことん「なぜ、いやか」を考え抜いてください。
ロケットは打ち上がるとホッとします。打ち上げる前は自分の失敗で打ちあがらなかったらどうしようという責任を考えて、吐きたくなるほどです。でも打ち上がると、うれしいだけでなく、お互いに感謝する。責任の向こう側には本当の仲間がいる。仲間や親友は簡単には得られない。責任を共有して初めて仲間ができる。
ロケットは、最初は全然うまくいかなかった。なぜなら世界初のロケット・エンジンを作ったからです。教科書には書かれていないので、何もそこから教えてもらえない。ただ本には人間の努力と命が詰まっている。昔の人の努力の階段を昇って、さらにその向こうにもう一段作ってください。最初はあまり応援もしてもらえないが、やがて信じてもらえる。悩まずに、自分を信じるんです。自分で考えて自分で試せば、自分だけの経験ができ、個性が身につく。
確かに、やったことないことをやると失敗する。でも失敗しても罰を与えたり、自分を責めてはいけない。誰かを責めてもいけない。責められないようにと、失敗を隠してもいけない。失敗したら「何でだろう。どうにかしよう」と考えることと、「こうしてみたら」という2つの要素が大事だ。
中学校の進路指導で「飛行機やロケットの仕事がしたい」と書いたら、先生から「東大に行かないと無理。お前の成績では行けない。どうせ無理」と言われた。でも、この先生はロケットや飛行機をやったことがなかった。相談する相手を間違えただけです。「努力しても無駄」と言われると、頑張れなくなる。「自分なんてどうせ無理」というのは悲しい言葉だ。これではロボットに負けてしまう。でも大丈夫。ロボットができないことがある。考える人になればいい。フィンランドやイスラエルでは中学から発明の時間を設けている。世界は考える人を探している。やりたがる人、あきらめない人、工夫する人。この3つだけでOKです。どこにいるか。それはここにいるみんなです。
僕のおばあちゃんは樺太で車の会社をやって豊かに暮らしていたが、敗戦ですべて失った。それでおばあちゃんが大事なこととして教えてくれたのが「貯金をしないで本を買いなさい。頭に入れたらなくならない」。それで「よく飛ぶ紙飛行機」とかペーパークラフトの本を買った。本のすばらしいところは死んだ人とも仲良くなれること。ライト兄弟とも仲良くなれる。本はヨーイドンを待たなくていい。人生はフライングしていい。伝記を読みなさい。キュリー夫人、エジソンがある。漫画でも全然OK。姪が『銀魂』を貸してくれた。好きなキャラクターはハタ皇子。『ONE PIECE』もいいです。この絵で気付くのはヘアスタイルと服が全員違うこと。自分の知らないことを知っていたり、自分のやらないことをやっているのが本当の仲間だ。同じ服を着ているのは自分を殺して演技しているに過ぎない。
自分が好きなことをやめないでください。5年後はすばらしいものになる。みんなはすごい可能性がある。人類の歴史は一人が変えたんです。みんなも同じ、その一人なんです。将来のマザー・テレサやスピルバーグ、J・K・ローリングがこの中にいる。彼らは好きなことをやめなかったからこうなった。好きなことなら頑張れる。社会人になったらテストは関係ない。好きなことをやれば頑張れるし、仲間もできる。「どうせ無理」と言われると自信を失う。自信がなくなると何をして言いか分からなくなる。自信がなくなると他人を見下したり、いじめたりする。世の中の大半のいじめは自分に自信がないからです。『どうせ無理』という言葉に出会ったら、「だったらこうしたら」と考えてみるといい。
夢と仕事は違う。でも一緒になってもいい。僕も「趣味は読書」と言っていたら、あるときアメリカ人に「そんなに本が好きなら本を書いてみたら」と言われて気付いた。読書って「読んで書く」んだと。それで作家という仕事も加わった。私の本は韓国、台湾で訳されている。彼らはひたすら受験勉強だけやってきて行き詰って自殺したりしている。
好きなことはとことんやったほうがいい。我慢してはいけない。夢はたくさんあっていい。夢がたくさんあると、一つくらいうまくいかなくても大丈夫となる。一つしか夢がないというのは危険だ。「一生懸命」という意味もみんなが取り違えている。一つのことをやるというのでなく、「一生好きなことをやる」という意味なんです。中途半端でもいい。何もやらないよりはるかにいい。
みなさんは、このすばらしい大学で学んでいる。学問は誰かに評価されるためではない。社会の問題を解決するため人類が積み上げてきたものなんです。教育は失敗を避けるためとか、要領のいい生き方を学ぶところでなく、失敗を安全に経験させる場なのです。失敗をマイナスと思う大人がたくさんいるから、可能性や自信を奪ってしまう。でも大丈夫。あきらめない人や工夫する人が増えればいい。みんな心の奥底にそういう自分を持っている。過去の常識は通用しない。みんなは未来に生きるんです。
でも、やったことないことをすると失敗する。失敗したらどうするか。「逃げる」です。失敗した自分を、逃げた自分を責めないでください。へこまないでください。でも実際は苦しいとか辛いとか申し訳ないとか、頭の中がぐるんぐるん回ってしまう。そんなときは「ただいま成長中」と言うと、くりっと一皮向けるんです。脱皮できる。みんなは今、一回きりの人生をぶっつけ本番で生きている。何のため生まれてきたのか。あきらめるためとか、言うことを聞くため生まれてきたのではない。みんなは知恵と工夫で世界を救うために生まれてきた。そのため学んでる。この先、自分の周りの苦しいこと、不便なことから新しい仕事が生まれる。過去は変えることができないが、未来はなんぼでも変えることができる。みんなと、より良い未来を作っていければなあと思います。
飛行機・ロケットは小さいときから好きでした。やったことない人は「できることない」と教えてくれた。でも母さんが「思うは招く」と教えてくれた。僕は思うことをやめませんでした。最後にこういう言葉を使ったらうれしいなというのを紹介して終わります。みなさんが「だったら、こうしてみたら」という言葉を使ってくれたらうれしいです。
(文責・井芹)
平成27年度前期 崇城大学教養講座 日程表 | ||
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4.24 | 神田 陽子 (講談師・崇城大学客員教授) | 日本の話芸~講談「真田幸村 大阪入城」~ |
5.1 | 太田 章 (五輪銀メダリスト) | オリンピックにかける夢 |
5.8 | 橋本 五郎 (読売新聞東京本社特別編集員) | 政治は本当は面白い |
5.15 | 三遊亭 歌之介 (落語家) | 出会いから学んだこと |
5.22 | 澤岡 昭 (大同大学学長) | 国際宇宙ステーションと活躍する日本人飛行士 |
5.29 | 村嶋 恒徳 (剣道七段・茗溪学園教諭) | 一剣士が伝えたいこと~剣の技と絵の心~ |
6.5 | 内田 亮子 (早稲田大学教授) | 暴走するヒト~からだ・心・言葉の進化を考える~ |
6.12 | 松元 崇 (元内閣府事務次官 第一生命経済研究所特別顧問) | 日本経済再生の方程式 |
6.19 | 大桃 美代子 (タレント) | 才能は地方で輝く!!~一次産業を生かすアイデア~ |
6.26 | 石川 智久 (大阪医科大学客員教授) | 遺伝子研究の最前線 |
7.3 | 宇都宮 健児 (前日本弁護士連合会会長) | 私の弁護士人生 |
7.10 | 植松 努 (植松電機専務取締役) | 「思うは招く」~夢があればなんでもできる~ |
(敬称略)