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2015年05月28日
2015年5月15日 三遊亭歌之介氏講演要旨
◎出会いから学んだこと
私の師匠は三遊亭圓歌。昭和4年生まれの86歳。毎晩6時間晩酌します。虫歯が1本もありません。全部入れ歯です(笑い)。住まいはいちばん地価の高いお屋敷町の千代田区六番町。右隣りはタンザニア大使館。左隣りは日本地図を作った伊能忠敬の実家。(師匠の家の)前の住人は作家の有島武郎。家の前に外車が止まっちょった。思わず「師匠! ぎっちょハンドルの車が外に止まっとります」と言ってしまった。鹿児島では外車をぎっちょハンドルと言います。それまで外車は走るだけで、止まらんと思っちょった。ワインカラーのアウディでした。4つの輪のマーク。「師匠、オリンピックでもらったんですか」「この田舎者が」と言われました。
遺伝子学の大家の筑波大・村上和雄先生によると、なぜ師匠が元気かと言うと、「遊び心があるからです」と。遊び心があると脳細胞が活性化される。活性化されると今までつながっていなかった遺伝子が一つにつながり始める。だからいつでもトキメキましょう。小さなことでも喜ぶのです。
立川談志師匠に言われました。「若者に未来はない。長生きしている若者がどこにおるのか。長生きしてるのは年寄りばかりじゃ」と。不思議な物の見方をする人でした。
屋久島一周100キロを18時間かけて走り抜きました。住んでいる川口市のマラソンで招待選手に選ばれました。ケニアのダニエル・ジェンガ選手と一緒でした。大会役員から「あんまり遅いとバスに乗って帰ることになりますが、招待選手でバスに乗った人はいません」と言われましたが、自己ベストが出て1時間58分でした。ハーフです。ジェンガは1時間5分でした。時速25キロ。こっちは時速10キロ。5分で見えなくなりました。指宿マラソンは毎年走ってます。どう見ても70代後半の方がサッサッと走って行って、すぐに背中がみえなくなりました。山田敬蔵さん、76歳でした。戦後初のヘルシンキ・オリンピックに参加し、ボストン・マラソンで優勝した方です。生き様が全部、背中に出ている。背中だけで私に何も言わせなかったのは、この方だけです。
出会いは全部、私を作ってくれました。私を変えたのは佐々木将人(まさんど)先生です。最初に会ったとき「この顔を見て気付け」と言われた。「沖縄の玄関によく置いてあるシーサーですか」と言うと、「面と向かって言われたのは初めてじゃ。左目はほとんど視力がない。幼いとき釘を打ち損じて釘が(目に)はね返って片目になった」と。私が38歳のとき、宮崎県の都井岬でタクシーから降りて3歩目に歩けなくなった。レントゲンを撮ったら左肺に水が溜まってました。肋膜炎でした。当時、年間317回、飛行機に乗って飛び回っていた。飛行機の中は気圧が違うからだと言われました。1週間の静養でした。佐々木将人先生から電話があり「歌之介、病いになったときは、病いを治すな」と言われた。「病いを治さずに、何を治すんですか」と聞くと「己を治すんじゃ。ええか、起きたことは全部、己を治すためのありがたい出来事じゃ」と言われた。あの一言で元気になった。言葉の力というのはすごい。
中村天風(てんぷう)哲学を学んでから人生観が変わりました。天風先生は、佐々木先生が5年間かばん持ちをされた方です。「北が悪いとか、南が悪いと言って大成した人物はいない。北が悪いと思うなら北極に行けばいい。北極に行けば北がなくなる。きょうは日が悪いとか言うが、仏滅の日に生まれた赤ちゃんは運が悪いとかは一切関係ない。こだわる人に限って自分の生まれた日は何の日か知らん。車を持ってくる日は大安にこだわるのもどうか。交通事故を最も起こす車はお守りをぶら下げている車だ」とおっしゃった。「人生は、その人が蒔いた種のように花が咲く」とも。人生を作るのは思い以外の何ものでもないのです。
天風先生はまた「欲があるから悩むんじゃ」と言われた。恋愛のときどうして悩むのか。でも、もし「僕は君が好きだ。でも好かれなくてもいい」と思ったら悩まなくてもいい。生きようとしていることそのものが欲なんです。釈迦や孔子、キリストもみな「欲を捨てろ」と言う。でも天風先生は「欲を捨てるということ自体が既に欲なのだ」と言われた。欲というのは自分が知っているものでないと出ない。「3円と5円。どちらを取る」「どちらでもいいです」「300万円と500万円」「500万円」「それじゃ3兆円と5兆円」「どっちでんよか」。知らない範囲のことだから欲が出ない。私は天風先生に軍配を上げます。
息は前に出します。息を出さない人は「はかない」人です。泣くときも、怒ったときも息を吸っています。息はゆっくり長く吐きましょう。「ながいき」じゃ。笑うと血の流れがよくなります。五臓六腑の中でガンになり難いのはどこか知ってますか。心臓と脾臓ですよ。心臓は温度が高い。いちばん低いのはどこでしょう。心臓から最も遠い手と足です。指先を使いましょう。作曲家の高木東六先生。103歳で亡くなるまでピアノを弾いてらっしゃいました。足の指が難しい。歩きましょう。笑いながら歩くのがいちばん。でも(その姿を見られると)友達を失うかもしれません。そこが課題ですが、時間が来たようです。
(文責・井芹)
平成27年度前期 崇城大学教養講座 日程表 | ||
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4.24 | 神田 陽子 (講談師・崇城大学客員教授) | 日本の話芸~講談「真田幸村 大阪入城」~ |
5.1 | 太田 章 (五輪銀メダリスト) | オリンピックにかける夢 |
5.8 | 橋本 五郎 (読売新聞東京本社特別編集員) | 政治は本当は面白い |
5.15 | 三遊亭 歌之介 (落語家) | 出会いから学んだこと |
5.22 | 澤岡 昭 (大同大学学長) | 国際宇宙ステーションと活躍する日本人飛行士 |
5.29 | 村嶋 恒徳 (剣道七段・茗溪学園教諭) | 一剣士が伝えたいこと~剣の技と絵の心~ |
6.5 | 内田 亮子 (早稲田大学教授) | 暴走するヒト~からだ・心・言葉の進化を考える~ |
6.12 | 松元 崇 (元内閣府事務次官 第一生命経済研究所特別顧問) | 日本経済再生の方程式 |
6.19 | 大桃 美代子 (タレント) | 才能は地方で輝く!!~一次産業を生かすアイデア~ |
6.26 | 石川 智久 (大阪医科大学客員教授) | 遺伝子研究の最前線 |
7.3 | 宇都宮 健児 (前日本弁護士連合会会長) | 私の弁護士人生 |
7.10 | 植松 努 (植松電機専務取締役) | 「思うは招く」~夢があればなんでもできる~ |
(敬称略)