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  1. 【講演レポート】教養講座「相田美砂子氏」講演要旨

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【講演レポート】教養講座「相田美砂子氏」講演要旨

2016年08月30日

2016年7月22日 広島大学副学長 相田美砂子氏講演要旨
◎コンピューターで進める化学と男女共同参画

この長いタイトルは、どこで切れると思いますか。「コンピューターで進める化学と/男女共同参画」か、「コンピューターで進める/化学と男女共同参画」か。私の気持ちは後者だ。男女共同参画推進に、10年ぐらい取り組んでいる。男女共同参画は当たり前で今更と考えるか、今更ではなく、まだ取り組まなければならないと考えるか。後者が多いようですね。皆さんはなぜ、大学に入ってきたか。単に学歴を得るためではないはず。社会で指導的な立場に立つ人材を育てるのが大学だとすると、大学で男女共同参画の概念をきちんと教えていけば、社会が変わると思う。
私はお茶ノ水女子大学の化学科を出て、東京の国立がんセンター研究所の研究員となり、1998年に広島大学に移った。計算機と化学を使って、生体分子の構造や反応性を理解する研究をしてきた。広島大学でナノテク・バイオ・IT融合教育プログラムという大きなプロジェクトを始めた時に、大学の中で新しいプロジェクトを走らせるのがいかに大変か、身をもって実感した。その後、男女共同参画推進室長も務めた。
女性活躍推進法が今年4月1日に施行され、301人以上の大企業は採用者や管理職に占める女性比率などに関して、計画と数値目標を公表しなければならなくなった。「くるみんマーク」を知っていますか。就活するときには「くるみんマーク」を意識しましょう。広島大学は次世代育成支援のための行動計画の第1期、第2期とも達成し、二つの「くるみんマーク」を取得している。女性活躍推進法に基づく広島大学の行動計画で掲げた女性の割合を達成するためには、積極的改善措置が必要である。積極的改善措置とは、雇用の機会に明らかな男女格差がある場合に、その少ない方に積極的に機会を提供することを言う。
広島大学では第2期中期計画の中で女性教員の割合の目標を「14%程度」とした。当時は9%しかなく、事務方は「達成できないと大変なことになる」と反対したが、私は過去10年以上のデータを調べて未来をシミュレーションした。女性教員の採用割合を26%程度にキープすれば、平成27(2015)年度には14%になることが明確になった。シミュレーションの目的は、分かっているデータを使って、目標を達成するのに必要な手段や重要な数値をはっきりさせることにある。平成33(2021)年度までに「20%程度」を掲げているが、これも女性採用26%をキープすれば可能だ。
IRとは、Institutional Research。大学にはデータがたくさんあるが、それをどのようにうまく使って先生方を納得させるか。データを可視化して先生方を納得させる必要がある。私は、「調整」という言葉は嫌いだ。無理強いしたり調整するのでなく、納得してやるのがよいという考えだ。そのためには適切なデータを示すことが大事で、大学改革を進めるときもデータを分析し、適切な方針を立てることが重要だ。

男女平等に関してアンケートしてみたい。崇城大学の学生さんの挙手の結果は、大学内は「ほぼ男女平等」、企業や研究者では「どちらかと言うと男性優遇」、小中高校では「ほぼ男女平等」、家庭は「どちらかと言うと女性優遇」か「ほぼ男女平等」、社会通念とか法律・制度、政治の場では「男性優遇」。広島大学で平成22(2010)年度と平成27(2015)年度に行ったアンケート調査とほぼ同じ傾向だ。
日本の人口ピラミッドを見ると、第1次ベビーブームの人が70歳前後になり、その子供である第2次ベビーブーマーは40歳前後。しかしその世代が子供を産む年齢になった頃、日本はバブル経済が崩壊した。職もなく、結婚・出産どころでなくなったのか、第3次ベビーブームは起きなかった。それで女性に活躍してほしいなどと今頃言い始めている。
働き手がなくなったから女性に働けというのは駄目だ。男であれ女であれ、誰でも人それぞれにやりたいことがあり、能力があるから働くという社会でなければならない。その基盤を作るのが大学だ。

ここにはバイオとITの学生がいるので、その話をする。化学、物理学、生物学は全く違う科学のように受け止められているが、まず100年前に物理学は量子力学が出て大きく変わり、生物学は20世紀半ばにDNA(デオキシリボ核酸)が発見されて完全に変わった。両方の影響を受け、化学もすごく変わった。ナノではフラーレン(サッカーボールの形をした炭素だけから成る分子)C60が有名だが、これは直径7Å程度の大きさ。DNAは幅が20Åで、ナノとバイオが扱う世界はサイズが非常に近い。ナノより小さいと量子力学を使わないと理解できないし、ナノより大きいと古典力学で理解できる。両方を理解して初めてナノの世界が理解できるが、10-9(ナノ)メートルのオーダーの世界では、コンピューターによる量子力学に基づいた計算が必要だ。ノーベル化学賞を取られた福井謙一先生は量子化学研究の最初の頃で、タイガーの手回し計算機を使っていた。今や大型コンピューターが必要だが、それによって量子力学が支配的な原子や分子の構造や電子状態を理解するのが、量子化学の世界です。

大学に入った皆さんは、物事の本質をとらえることが最も大事です。研究室に残ったり、就職したりするかもしれないが、どういう進路であれ、社会にはいろいろな課題がある。それらを解決するためには、①まず問題があることに気付かなくてはならない、②なぜか、どうしてかと自分で課題を明確化する、③それを解決する方法を考え実行する――ことが必要です。そうした物事の本質を見抜く考え方を、ぜひ身につけてもらいたい。大学での勉強の目的は単位を取ることではなく、自分の道を見つけ、自分の足で歩めるよう勉強することです。大学4年間を、有意義に過ごしてください。
(文責・井芹)
DSCF3889相田美砂子氏.png
平成28年度前期 崇城大学教養講座 日程表
5.13 フルック (ケルト音楽グループ) ケルト音楽の現在
5.20 神田 陽子(講談師・崇城大学客員教授)講談「中山義崇物語」~崇城大学創始者に捧ぐ~
5.27 江守 正多 (国立環境研究所室長) 気候変動リスクと人類の選択
6.3 大久保 剛 (フンドーダイ㈱ 前副社長) 「生き方」を考える
6.10 重光 克昭(重光産業㈱ 社長) 熊本発世界ラーメン
6.17 古庄 忠信 (㈱イズミ車体製作所 会長) 「気づき」の経営
6.24 廣瀬 幸雄 (金沢大学 名誉教授) 美味しいコーヒーの飲み方
7.1 秋山 幸二 (ソフトバンクホークス 前監督) 私の野球人生
7.8 向大野 新治 (衆議院 事務総長) 通説的国会論では理解できない国会のあり方
7.15 トム・イェイツ(在福岡オーストラリア総領事) 日本とオーストラリアの教育のパートナーシップのあり方(仮題)
7.22 相田 美砂子 (広島大学 副学長) コンピュータで進める化学と男女共同参画
7.29 高光 りょうすけ (感動教育家) あなたを輝かせる源は感動力にある

(敬称略)