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【講演レポート】教養講座「山下泰雄氏」講演要旨

2016年11月22日

2016年10月21日 通潤酒造(株)社長 山下泰雄氏講演要旨
◎KPPと一緒にブルーオーシャンへ~造酒屋の冒険~

経営学では、お互い価格を切り合って赤い血に染まった状態をレッドオーシャンと呼び、それに対して誰もいない海、価格競争のない海のことをブルーオーシャンと言う。レッドオーシャンにある造り酒屋で苦悩していたが、大好きなきゃりーぱみゅぱみゅ(KPP)の歌に励まされ、自分たちのブルーオーシャンを見つけたいと思ってやってきた。通潤酒造は明和7(1770)年創業。田沼意次の時代です。日本酒を作り続けて、私で12代目。従業員30人の典型的な中小企業です。
皆さんCDは買いますか。今はほとんどレンタルで、買わなくなっている。借りたり、ストリーミングで音楽を聴く時代になっている。そんな中、KPPが何でお金を稼ぐかというと、CDでなくコンサートです。物の売り買いは、これまでと全く違ってきている。

日本酒は神代の昔からある商品ですが、日本酒業界の現状を言うと、かつて熊本県での販売量が年間3,441キロリットルあったのが、今や1,580キロリットルしかない。日本酒を飲んでもらうのが、大変厳しくなってきている。「そうは問屋が卸さない」という言葉があるように、酒は卸問屋を通して卸すが、県内卸も半分に減っている。大手コンビニの店頭に並んで売れなかった酒は、3カ月くらいで戻ってくる。10万本卸して3万本戻ってきたらお手上げになる。
そこでネット販売を始めた。すると専門家から「ホームページを作っただけでは売れませんよ」と言われた。道のない山の中に立派な店を作ってもお客が来ないのと同じように、ホームページにどうやってお客に来てもらうかが大事だという。「メルマガの登録を増やしたらいいだろう」と思ったが、実際やってみると月10~20人で、これでは年100人で、1万人になるのは100年後となってしまう。そこで「SNSを使いなさい」と言われた。今では、私も会社もフェイスブックをやっている。

清酒「蛍丸」誕生は、1年ほど前になる。刀剣を擬人化したオンラインゲーム(『刀剣乱舞-2015年1月リリース』)から発して刀剣ブームが起きた。阿蘇家の宝刀「蛍丸」も出てくる。阿蘇家は全盛時代に山都町に本拠を置いていたので、縁がある。酒や弁当などの関連商品を作らないかと呼びかけがあった時、「やってみよう」と応じた。瓶のデザインにもこだわり、両面印刷にして蛍が飛んでいるように見える工夫をした。包みも剣は前で結ぶと聞いて、紐を前で結んだ。昨年6月にネットにアップして300本売り出したところ、わずか6時間で売り切れた。「予約を入れてください」と言っているが、毎月1000本売れている。SNSの力を試したいと思ってい矢先に、きちんと作り込まれた商品には力を発揮することが分かった。

どんどんいけると思っていた時、熊本地震に遭った。お酒4200リットルが流出した。お酒を飲みに行く人が減り、2割程度の売り上げ減となった。設備も大きな被害を受け、麹室や、いつも柿渋で雑菌がないようにぴかぴかに磨いていた出麹室も被害に遭った。

KPPの『つけまつける』の歌詞ではないが、「そうだ。社長が自信を持たなければ従業員は自信を持てない」と気付き、「もう一回やり直そう」と気を取り直した。するとネットを通した支援がものすごく広がった。蛍丸を買ってもらった人から、励ましの手紙ももらった。言葉だけでつながっている。米国の元国務長官ベーカーさんも「言葉は貨幣である。いい言葉は信頼を得るが、悪い言葉はインフレになり信用を失う」と言っている。ネットから大量の注文があったことで、社内は活気づいた。ネットの力は拡散する。

5月3日に東京・ビッグサイトで開かれた「コミケ」(コミック・マーケット)は、2日間で20万人の来場がある最大級のイベントだ。ここでの出店をどうするか迷っている時「待ってますよ」という反響があり、出かけた。蛍丸を1000本持っていったら、半日で売り切れた。たった2日で、400万円近く売り上げたことになる。まさにネットとリアルの融合だ。
彼らはいったい何を買っているのか。蛍丸は370ミリリットルで1,500円と、普通の酒の3倍以上する。これまで日本酒を飲んだことがない人も、話題になっているのでネットで買ってくれる。こういう人たちは、いわば蛍丸の物語を買っているのだと気付いた。蛍丸ツアーという山都町内の神社や酒蔵を巡る旅に、7万円も払ってくれたりする。
今は、モノ消費からコト消費へと移っている。CDは買わないが、コンサートには行く。体の満足でなく、心の満足を求めているのだ。

KPPの『もんだいガール』では「毎回『みんな』にあてはまる/そんなやつなんているのかい」と歌っているが、変化のポイントは①ブランド信仰がなくなってきている、②商品の評価はレビュー次第で決まる、③全てはストリーミングですぐ伝わるため新聞ですら遅い、④かつてはタダでないものが大事だったが、現在モノはタダへタダへと流れている。実は熊本ではその最先端が実現している。避難所で食べ物はタダだったし、仮設で住宅がタダ、家の修復もタダだ。
モノに対する価格がタダに近づく中で、かけがえのないものは何か。それは経験だ。通潤酒造にはまず歴史がある。熊本酵母という一番いい酵母を使い、地元の「華錦」という酒米を使っている。物語が最も大事だ。『物語戦略』という本には、商品を買うのは物語を買うからだとある。酒を買うというより熊本の物語、復興の物語を買っている。リアルとバーチャルをつなぐ物語が大事だ。

バーチャルで買っていただいて、興味を持って酒蔵に来られた方々には、新しい見せ方をする必要がある。私は今、新しい酒蔵の構想について東京の設計事務所と相談している。歴史・文化を踏まえ、見て楽しいものを創りたい。コンサートもできる酒蔵にしたい。展示もできるようにして、蔵の中に山田錦や華錦の田んぼを作りたい。米作りを体験できるようにしたい。
熊本は必ず、もっといい経済になれる。そのためには企業が復興し、新たな企業に生まれ変わる必要がある。KPPの歌「インベーダー、インベーダー」にあるように、世界征服だ!
(文責・井芹)


IMG_0286 山下泰雄氏.jpg
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10.21 山下 泰雄 (通潤酒造(株)社長) KPPと一緒にブルーオーシャンへ~造酒屋の冒険~
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(敬称略)