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【講演レポート】教養講座「佐藤允彦氏」講演要旨

2016年12月16日

2016年11月18日 ピアニスト・作曲家 佐藤允彦氏講演要旨
◎コミュニケーション・ツールとしての音楽

現在われわれの耳に入ってくる音楽はクラシック、ポップス、歌謡曲など、9割方が西ヨーロッパ起源のものだ。その西洋音楽は「十二音平均律」と呼ばれる音律で成立している。この黒い楽器(ピアノ)のここが「ド」の音。右に移ってこれも「ド」の音。この二つの音の間がオクターブで、上の「ド」は下の「ド」の二倍の周波数になる。オクターブを十二等分した音律が「十二音平均律」。ピアノは鍵盤が十二。ギターは弦を区切る縦のフレットが十二。西ヨーロッパ(北アメリカを含む)で勢力を持つ国々が、音楽でも支配しているように見える。
ところが地球上には非西洋音楽もある。ほとんどの場合、「十二音平均律」とは別の音律で成立している。「非西洋音楽」という言い方自体が上から目線で、これらには独自の音律がある。「民族音楽」と言ったほうがよいかもしれない。私のやっているジャズは、非西洋音楽と西洋音楽の音律が合体してできたものだ。

最初の人類は音でコミュニケーションを取る、音で意思疎通していたと思われる。では、楽器がない時代にどうやっていたろう。
(トラック1 再生)
アフリカの熱帯雨林で生活しているピグミーの村の人たちが集まって、川の中で水面を叩いている。ウォータードラミング。深くたたき込めば低い音、表面で止めれば高い音。低音と高音で複数のリズムが混じり合った「ポリリズム」になっている。
(トラック2 再生)
ピグミー族の中のバカ族の人は、楽器を使わずに独特の発声で歌っている。これは音楽というより通信しているようだ。ヨーデルのように裏声を使う。メロディーがあるわけでないが、ちょっとしたリズム感はある。楽器なしですでに立派な音楽ではないか。
(トラック3 再生)
木を削って、空の瓢箪を下においてたたく木琴のような楽器で、ベトナムのトルンという楽器。不思議な音律だ。
(トラック4 再生)
アラビア語を話す人たちの音楽。単に高さの順に音を並べた「音階」という概念と違い、ある高さの音にはこういう旋律の形が付随するといった「節回し付きの音組織」=マカームMaqam=で成立している。
(トラック5 再生)
これはバヤーティシュリというマカームです。
(トラック6 再生)
これはインドネシアやマレーシアなど、東南アジアにあるガムランGamelan 音楽。音階が2種類。スレンドゥロはオクターブを5等分、ペログは7等分したもの。
(トラック7再生)
インド音楽もアラブ音楽と同じ思想ででき上がっており、マカームに対してラーガRaga という。いま聴いているのはインド音楽でボーカルを勉強するための訓練だ。歌詞を付けて歌うインプロビゼーション(即興演奏)だが、ビハーブという名のラーガ。民族音楽はどれも西洋音楽に慣れた聴覚には難しい音楽だ。

西洋音楽にも壁があるように、どんな民族音楽にも壁がある。音律の壁、リズムの壁。その壁を超えて音楽でコミュニケーションを成立させるには、「音楽」から「楽」を取ってしまう、つまり「音楽」や「音学」ができる以前の単体の「音」、分野のしがらみのない裸の「音」に立ち返ってやりとりすればよいのではないか。

コミュニケーションとは、相手が何を考えているかに関係なく、実質的な何かをしなくてはならない。スポンテーニャス(自発的)にやらなければならない。即興的に対応したらいい。声を出したいと思ったら、単なる「音」を出せばよい。それがラテン語のimpovisio(即興)だ。Adlib もラテン語のad libitum を略したもので即興を意味する。「即」は即座に、直ちに。「興」は起こること、興味。何か面白いと思ったらそこに行ける即応能力と、何も想定せずに感情が柔軟であることが必要だ。
impovisio とは面白いと思ったときに始めること。スピード感が大事。頭が早く回るというのとは違う。落語の「長短」のように、人はそれぞれ固有の速度を持っている。
目の付けどころがimpovisio の基本だ。作曲家エルメート・パスコアールさん(ブラジル)は浅草での啖呵(たんか)売りから音楽を作った。異国の言葉の声の高低をなぞって楽器の旋律をつくり、リズムを付けてブラジルの音楽にしてしまった。このように自分なりの捉え方をするのがimpovisio の基本だ。

偶発的に起きたことに、興味を持つ。そこから何を連想するか。おじさんの駄洒落やタモリの空耳アワーで、英語の歌から日本語を見つけて面白いと思って笑う。そうやると捕捉力がアップする。捕捉する自分なりの方法を発展させることが大事だ。タバコにゲタバコ(下駄箱)、ソダイゴミ(粗大ゴミ)とダイゴミ(醍醐味)など。ふだんから折に触れて楽しむ。ばかばかしいことで笑ったり、とんでもない発想をして3カ月過ごしてみてください。何かが変わります。
(文責・井芹)


DSCF5670佐藤允彦氏.jpg



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10.7 神田 陽子 (講談師・崇城大学各員教授) 講談と遊ぶ・学ぶ(まねぶ)
10.14 上村 春樹 (講道館長) 指導者の役割
10.21 山下 泰雄 (通潤酒造(株)社長) KPPと一緒にブルーオーシャンへ~造酒屋の冒険~
10.28 姜尚中 (政治学者・熊本県立劇場館長) 大学で学ぶべきこと
11.2 阿部 富士子 (造形作家・扇研究家) 知られざる「扇」の世界
11.11 ナヌーク (グリーンランド音楽グループ) 氷と雪に閉ざされた極北の大地グリーンランド
11.18 佐藤 允彦 (ピアニスト・作曲家) コミュニケーション・ツールとしての音楽
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12.2 バイマー ヤンジン (チベット声楽家) 私の見たチベットと日本
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(敬称略)