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  1. 【講演レポート】教養講座「阿部富士子氏」講演要旨

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【講演レポート】教養講座「阿部富士子氏」講演要旨

2016年12月08日

2016年11月2日 造形作家・扇研究家 阿部富士子氏講演要旨
◎知られざる「扇」の世界

扇子は日本で生まれ、1000年以上の歴史があります。12世紀に描かれた国宝「鳥獣戯画」に登場するサルやウサギも扇を手にしており、日本に昔から扇があることがよくわかります。西洋では印象派の画家モネやマネなども、日本にあこがれ扇子や団扇を多く描いています。

では、扇子はどうやって作られるのでしょうか。材料は「扇面」と言って扇形の和紙と「扇骨」(せんこつ)という扇の骨、それにでんぷん糊の3つの自然素材でできています。扇骨は左右の太い骨を親骨、内側の細い骨を中骨といいます。よく団扇のように表と裏から2枚の和紙を張り合わせているのではないかと思われていますが、江戸時代の扇は1枚の和紙を薄く裂いて、その間に中骨を差し込んでいます。厚み0.11~0.15mmという驚きの薄さです。その扇面の和紙に絵を描き、折り畳み、中骨を入れる通り道を作る「中差し」をし、糊をつけた中骨を和紙に差し込み、最後に左右の親骨を貼るとでき上がります。
本日のポイントは、混同しやすい「扇面画・扇絵・扇」の違いを理解することです。まず「扇面画」(せんめんが)は扇面に描かれた絵のことで、平らな状態で鑑賞します。「扇絵」(おうぎえ)は扇にするために扇面に描かれた絵のことで、折によって生まれる凹凸を考慮して絵を描きます。扇は扇絵と扇骨が一体となったものです。
例をあげて説明します。扇面にきれいな円を描きます。これは扇面画にあたります。これを扇に仕立てると、折により円弧方向に収縮するため円が楕円に歪みます。今度は扇面にパンダのような楕円の両目を描きます。この扇絵を折り畳んで扇に仕立てると、右のようなきれいな円が2つ生まれます。きれいな円を扇に表そうと思うと、扇絵ではパンダのような目を描かなくてはなりません。
また扇の特性はそればかりではなく、同じサイズの扇面でも、骨の下にある要(かなめ)部分に近づくほど扇面の開きが大きくなり、絵の歪みも変化します。このメカニズムを習得しなければ、江戸の絵師達も扇絵を描くことができませんでした。
次に扇の描画法です。絵師による折面や折目など、扇の凹凸を利用した扇絵の描画例をあげてみます。
まず「折面を生かした描画」ですが、人物の顔が全て折目にかからずに折面に収まっている歌川国貞が描いた扇が特長的です。この2本の扇はどちらも男女2人を描いていますが、扇の折の山・谷の傾斜をうまく利用し、2人の男女の距離が折により近づいたり離れたりしています。
こちらの扇は、男女の視線が見つめ合い、親密感が溢れています。もう1本の扇は、男性は女性をしっかり見ているのですが、女性は男性の視線を山折の陰に隠れるように顔を配置し、まだお付き合いを始めたばかりなのでしょうか、女性の恥じらう表情を強めています。2人の関係を巧妙に折を生かして描かれ、見る人の想像力をかき立てるような扇です。
森狙仙の「猿」は「折目を生かした描画」です。折目のぎりぎりに目を配置することで、野生の猿の緊張感がよく伝わってきます。次は「両面を生かした描画」に酒井抱一の「秋草」があります。秋草を描いた扇を手に取り光にかざすと、裏面に描いた月が透けて表面の秋草にほんのり月が見えるという、扇ならではの表現になっています。
「視点の変化を生かした描画」では、葛飾北斎の「縁台の三美人」があげられます。北斎は西洋画の技法も学んでいますので、正面から見ると遠近法を取り入れた絵画のようです。しかしそこに北斎は粋な仕掛けをしています。まず手に取り右斜めから見ると、2人の女性・二美人ですが、徐々に角度を変えてみると三美人になり、さらに回転を進めると、今度は2人が消えて一美人になる。絵のひずみがどこで生じるかを計算し尽くして描いた結果、どの角度から見ても楽しめる扇に仕上がっています。北斎ならではの、扇の折の造形を熟知した一品です。
このように絵師達は、扇にするための技巧を凝らして描画しているのですが、博物館などに展示されるときは、尾形光琳「仕丁図扇面」というように「〇〇扇面」と題名が表示されています。また画集や図録でも、骨のついた扇でありながら「扇面」部分のみ掲載されるケースが多くあります。
先ほど説明しましたように、2次元の平面で見る扇面画と3次元の立体である扇は、描画法に大きな違いがあります。折りの効果を活かした「扇」と平面に描かれた「扇面画」を同種のものとして扱わず、扇は扇としてその独自の存在価値を再評価してほしいと考えています。

私はこのように日本で長い歴史を持つ素晴らしい扇の描画法を次世代に継承したいと思い、「誰でも作れる扇子作り」を考案しました。そして学校や美術館などで、扇子作りのワークショッップを行っています。
扇の構造を理解すれば、このように豆扇子から舞扇まで、誰でも素晴らしい扇子が自分で作れます。扇はコンパクトで、折り畳むことができます。
これから世界に羽ばたく皆さんが海外に出かけるとき、本日お話しした日本の伝統文化、折の文化などを日本の扇子を使って語っていただければ、この上ない幸せです。

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平成28年度後期 崇城大学教養講座 日程表
9.23 山川 烈 (崇城大学副学長) グローカル時代を悔いなく生きるために
9.30 川﨑 博 (ホテル日航熊本社長) 二つの仕事を体験して思うこと
10.7 神田 陽子 (講談師・崇城大学各員教授) 講談と遊ぶ・学ぶ(まねぶ)
10.14 上村 春樹 (講道館長) 指導者の役割
10.21 山下 泰雄 (通潤酒造(株)社長) KPPと一緒にブルーオーシャンへ~造酒屋の冒険~
10.28 姜尚中 (政治学者・熊本県立劇場館長) 大学で学ぶべきこと
11.2 阿部 富士子 (造形作家・扇研究家) 知られざる「扇」の世界
11.11 ナヌーク (グリーンランド音楽グループ) 氷と雪に閉ざされた極北の大地グリーンランド
11.18 佐藤 允彦 (ピアニスト・作曲家) コミュニケーション・ツールとしての音楽
11.25 辺 真一 (コリア・レポート編集長) 東アジア情勢をどう考えるか
12.2 バイマー ヤンジン (チベット声楽家) 私の見たチベットと日本
12.9 飯田 敏博 (鹿児島国際大学副学長) カフェ・シーンから学ぶ映画と文学
12.16 米澤 房朝 ((株)ヨネザワ代表取締役社長) 夢は必ず実現する

(敬称略)