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  1. 【講演レポート】教養講座「トム・イェイツ氏」講演要旨

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【講演レポート】教養講座「トム・イェイツ氏」講演要旨

2016年08月29日

2016年7月15日 在福岡オーストラリア総領事 トム・イェイツ氏講演要旨
◎日本とオーストラリアの教育のパートナーシップのあり方

中山峰男学長は熊本の日豪協会会長もされているが、このような講演の機会を与えていただいたことに感謝します。
4月26日、私は崇城大学、県庁、市役所を訪れてお見舞いした。熊本の方は、お互い助け合って困難な時を乗り越えようとしている。中山学長から「崇城大学生がボランティアに行き、人生の本当の意味を考える機会を得た」という話を聞いた。
第一に、日本とオーストラリアの歴史的、経済的関係について話をする。どんな2国関係においても、重要なのは教育だ。1875年、後に提督となる東郷平八郎が英艦ハンプシャー号でオーストラリアを訪れ、カンガルーを初めて見た日本人となった。1970~90年には、日本とオーストラリアの300以上の大学間で、交換学生に関する協定が結ばれた。タスマニア州のデボンポートと水俣市、首都圏モナロ市と山鹿市の間の姉妹都市、山鹿出身の松尾敬宇(よしたか)中佐の誇らしい歴史もある。こうした連携をもっと発展させるのに、今ほど好機はない。
1957年には、安倍晋三首相の祖父、岸信介元首相によって日豪通商条約が締結され、世界的規模の鉄鉱石鉱山や炭鉱が開発された。

そうした40年間の結果は、日本はオーストラリア最大の輸出相手国になり、2015年には日豪EPA(経済連携協定)が調印された。この年、日本は英国を抜いて対豪州投資国の第2位となった。大阪に本拠を置くフットワークを買収したオーストラリアの物流大手トール社を、今度は日本郵政が4万5000人の従業員ともども買収したことが、メディアの注目の的となった。
日豪EPAでは、教育面の結果も出ている。大学学生だけでなく修士、博士を含む奨学金制度の拡大がある。昨年末のターンブル首相の歴史的な訪日では、オーストラリアでの3年間の学士の取得単位が日本政府(日本の大学)によって認められることとなった。これは両国間の教育を推進する、大きな一歩だ。

下村博文前文部大臣が2013年7月に発表した教育改革は、大幅な交流拡大の土台となるもので、その中には留学生を12万人に倍増し、官民協働による留学生支援のための「トビタテ!計画」やトップ・グローバル大学構想、スーパー・グローバル高校構想がある。もう一つ、英語教育と学生の英語力の向上の問題がある。いまやオーストラリアへの留学生は毎年6万人以上で、短期留学が大半だが、両国間の教育交流の重要な柱となっている。
個人的なことを話したい。私が1972年、1年間の交換留学生として日本に来なかったら、今日、総領事となってここにいることはなかった。なぜ日本に来たのか。父は日本がオーストラリアにとって重要な国になると考え、外国語を学んでほしいと考えていた。皆さんにとっては、英語を学ぶことが将来の基礎となる。
私が留学した横浜市戸塚区の山手学院では、9月29日に創立50周年行事がある。私も出席するが、エメリー校長先生は英語学習と英会話を真剣にとらえていて、多くの子どもたちが流暢に英語を話す。英語はいまやASEAN(東南アジア諸国連合)のインドネシアやベトナム、それに中国でも共通語となっている。アジアで将来、国際的に成功するグローバル人材になるのであれば、英語にプラスして異文化理解やリーダーシップ・トレーニングも必須の技術となってくる。
日本はオーストラリアで英語を学ぶ国としては2番目に大きな国であり、1万9000人の日本人が大学間交流のさまざまな英語コースで学んでいる。他にワーキング・ホリデー制度もあり、短期・長期の英語学習で英語検定の点数が上がれば大学のポスト学士コースに行き、さらにオーストラリアで勉強することもできる。
第二に、日本とオーストラリア間の新たな教育分野とパートナーシップについて話す。ここ3年で日豪間の教育分野では、大きな変化が見られた。中高校レベルでは、英語学習に特化したプログラムができ、それには大学訪問なども組み込まれている。大学レベルでは大学間の共同研究開発がある。36人の先生が、英語教授法を学ぶためオーストラリアに行く。オーストラリアの学生も日本に来る。新コロンボ・プログラムではアジアへの留学を進めているが、1万人のうち1000人が日本の大学に留学している。
第三に、オーストラリアの教育の質の管理と提供できる教育について話をする。オーストラリアの教育の質については「大学・学校・技術教育機関間のオーストラリア資格協会」が教育の質の管理を行っており、他の機関による管理もされていて、教育の品質基準は保障されている。実際、オーストラリアの6つの大学が世界の大学トップ100にランクインしており、創設50年以下の大学ではトップ100に16の大学が入っている。
日本の学生は英語を学ぶ目的地と考えている場合が多いが、オーストラリアは、ビジネスの基礎訓練や、より高度な研究の場ともなり得る。第二のポイントは、日本と時差がないこと。第三のポイントは安全であること。第四は人々が極めてフレンドリーだという、ライフスタイルの点だ。先月、宮崎であったジェトロ(日本貿易振興機構)の会合で、オーストラリアで教育を受けたアジアの新興国の2人の代表は、➀オーストラリアでの教育で心を広げ、幅広い見方ができるようになったこと、②物事をうまく処理する実際的な側面を持てるようになったこと―について話をしていたのに感銘を受けた。

次に、皆さんが今後直面する課題について話をする。一つは地政学的な課題だ。英国のEU離脱、IS(イスラム国)、為替市場の変動など地政学的な環境が激変している。日本の学生にとって重要なのは、日本で起きたことを外国に説明するだけでなく、世界で起きたことを理解し説明できるようになることだ。次にソーシャル・メディアとAI(人工知能)の課題がある。私たちの仕事の40%は、将来AIに取って代わられるという見方もある。環境と気候変動の課題もある。最後に少子高齢化の課題がある。日本はこの問題を取り扱う最初の先進国であり、我々は日本から学ぶことができるだろう。
短期であれ長期であれ、海外での留学経験は、こうしたさまざまな課題への取り組み方を身につけさせてくれる。10月には東京と大阪でオーストラリア留学フェア(AFUEE2016)も行われる。最後に皆さんの将来の成功を願うとともに、その将来の一部としてオーストラリアとの関わりを持つ方が現れることを期待します。
(文責・井芹)

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平成28年度前期 崇城大学教養講座 日程表
5.13 フルック (ケルト音楽グループ) ケルト音楽の現在
5.20 神田 陽子(講談師・崇城大学客員教授)講談「中山義崇物語」~崇城大学創始者に捧ぐ~
5.27 江守 正多 (国立環境研究所室長) 気候変動リスクと人類の選択
6.3 大久保 剛 (フンドーダイ㈱ 前副社長) 「生き方」を考える
6.10 重光 克昭(重光産業㈱ 社長) 熊本発世界ラーメン
6.17 古庄 忠信 (㈱イズミ車体製作所 会長) 「気づき」の経営
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7.15 トム・イェイツ(在福岡オーストラリア総領事) 日本とオーストラリアの教育のパートナーシップのあり方(仮題)
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7.29 高光 りょうすけ (感動教育家) あなたを輝かせる源は感動力にある

(敬称略)