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【講演レポート】教養講座「上妻 博明氏」講演要旨

2016年02月03日

2016年1月8日 元内閣調査室長、ハリウッド大学院大学教授 上妻博明氏講演要旨

◎法律ができるまで

1970年のロッキード事件の頃から長く衆院法制局にいて、最後は内閣調査室長をした。衆院法制局というのは直接、国民の目の前で仕事をすることがないので知らない人が多い。私たちが作っているのは目に見えない法律というもので、国会議員や各省庁の方にしか知られていない。実は「法制局」は3つある。内閣と参院にもある。立法は国会の仕事とされているのに、なぜ内閣にも必要なのか。内閣は法律を施行して具体的に仕事をする。警察が犯人を捕まえたり、税金を取るなど、法律を運用するのが内閣の仕事で、運用して困ったら、新しい法律を作ったり、いまある法律を改正したりする。そのとき法律の審査をする必要があるので内閣にも法制局がある。

法律は、本当は誰がどのように作っているのかが今日のテーマ。国会議員が法律を作っていると思うかもしれないが、そうでもない。法律は年間約150本出てくる。成立するのが約100本ほどだ。もともとある法律を一部手直しするのを「一部改正法」という。全く新しい法律という形で出ることもある。

その前に、法律で死刑にしたり、税金を取ったり、困っている人にお金を渡すことがあるが、そうした法律の力はどこから出てくるのか。その力の本になっているのは国家・国です。国家とは何か。国家は領土があって人民がいて、主権と言って人民を抑える力を持っている。なぜ国家がそういう力を持つことができるか。そこに立憲主義という考え方がある。近代民主政治をロックやルソー、ホッブズらが唱えた。18世紀の近代ヨーロッパでこの思想が生まれた。

それまでは王様中心の国家だった。王様の考え方次第で税金を取っていたが、それに対して「それはおかしい」という考えを持ったのがロックたちだ。彼らは「人間は自由・平等だ」という考えを打ち出した。二人以上の人がいると、そういう自由と平等がぶつかり合う。いろんな価値観や世界観を持つ人がいる。それをどうしたらよいかと考えて出てきたのが「法の支配」という考えだ。国王でなく「法の支配」によれば皆が幸福になると考えた。ロックは「立法権」というものを考え、その立法を議会がやっていくことを考えた。モンテスキューは立法・司法・行政の「三権分立」の考えを出し、王様の権限を3権に分けた。それを束ねるのが「法」であり、基本的人権と治め方を決めた「憲法」を作ろうということで、立憲主義ということになった。

法令はいくつ日本にあるか。憲法・法律が1960、政令・勅令が2185、府例・省令が3702で計7847法令ある。江戸時代には街の辻や角に高札を立てていた。公事方御定書(くじかたおさだめがき)とか貞永式目(じょうえいしきもく)とかの日本独自の法律もあった。明治政府になって問題が2つあった。治外法権と関税自主権。アメリカ人が犯罪を犯しても彼らを日本は自由に裁くことができなかった。関税も自由に決められなかった。それは日本に欧米のような法律制度がなかったためだ。そこで欧米と同じような法律を作らないといけないと考えた。それでいち早く内閣法制局が作られた。その第2代長官は井上毅。熊本の人だ。

どうやって具体的に法律が作られていくか。政策は法律と予算という車の両輪で実行されていく。それを最終的に決めるのが国会の役割だ。そういう政策はどういう人の意見を聞くのか。世論、日本医師会、業界団体などの圧力団体、市民運動、国家的な要請、地方公共団体、世界の動きなどの要望を受けて作られる。法律は①政党主導②内閣提出―という2つのラインで作られる。首相や閣僚は国会議員であり、どちらからでも法案を出せるので、内閣も法案を出せることになった。立憲主義の中で法律の力が強いので、その法律をチェックする内閣法制局が壮大な力を持った。もう一つの「局」で役所の中で威張っていたのが予算を握る財務省主計局で、「2局時代」とも言われた。細川政権ができて1955年体制が崩壊して以降、2局体制も変わってきている。

もう一つは議員立法があり、議員個人が出す場合と委員会で出すものがある。内閣提出とともに、法案が出されると趣旨説明が本会議と委員会で行われ、その後に質疑があり、最終的に討論、採決がある。法案は2つの院の本会議を通ると法律になる。

衆院法制局にはまず政党から依頼が来る。それは政策構想という形で持ち込まれる。まず依頼されたものが本当に法律を作らないといけないのかを考える。法律でしかやれないと認めたものを「立法事実」という。次に、どういう手段が選ぶかを考えて、それに基づく「要綱」を作る。それから法律を本当に作るとなると「条文化」を行う。法律の条文は日本語のように見えるが、普通の日本語とは少し違う。いろんな意味に読まれてはいけない。それを避けるため書き方が決まっている。

例えば「又は」「若しくは」の使い方。選択肢が3つ出てきて、「A又はB若しくはC」とあるとすると、大きな選択肢を「又は」でつなぎ、小さな選択肢を「若しくは」でつなぐ。Andのときは「及び」「並びに」を使うが、「及び」は小さなものを結びつけるときに使う。形容詞は人によって感覚が違うので法律では使わない。副詞は「直ちに」「速やかに」とかは使うことがある。日本語は言葉そのものがあいまいだ。対象が広がりすぎるときは定義をして使う。それらの立法技術を駆使して条文化の作業をして法律を作る。

役人はこうしたがいいですよという意見は言わない。政治家に持っていくときは複数案を持っていく。A案、B案、C案についてメリット、デメリットをきちんと説明して選んでもらう。政策決定について、われわれは裏方から見ている。客観的な立場から法律を作るよう心がけている。

日本は国会と内閣の関係で言うと、議院内閣制を取っている。日本型モデルとイギリス型モデルがある。同じように見えるが、全く違う。日本の内閣は儀礼的機関であって与党で決まったことを実行する。最強メンバーという訳ではない。これに対しイギリスでは内閣が政治の最強機関であり、究極の意思決定を行う。官僚が政策を決めることはない。与党の最強幹部、すなわちオールスターが内閣に入っている。日本ではオールスターでないので、力を持った人が内閣にいないこともある。

イギリスはなぜそうしたことができるのか。イギリスでは政党が選挙でマニフェストを国民に問う。国民が有能という考えがあるので国民に選んでもらう。その国民の代表が内閣を作る。これに対し日本では国民の判断力が十分でないと考えて、選挙ではエリートを選び、そのエリートが最善の政策を考えるべきだとする。だから選挙では政策を言わずに名前を連呼するだけになる。小選挙区では熊本市長選よりも狭い範囲から選ばれる。

皆さんは18歳になっている。次の参院選挙から選挙権がある。国会議員にどういう人を選ぶか、国会の仕事は何か、国民の基本的な権利を誰が大事にしているかを考えて投票してほしい。

(文責・井芹)

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法律ができるまで

(敬称略)